自分に合うクラリネットの選び方は?
大和田智彦さん インタビュー
スチューデントクラリネット”E11″、”E12″、”E13″は、音の出しやすさと音色の豊かさによって機種が分かれます。一方、プロフェッショナル仕様の”R13″、”RC”は、それぞれ設計が全く異なるクラリネットのため、初心者のかたには「どう選べばよいのか分からない」機種に思えるかも知れません。
そこで、“R13″、”RC”を吹いた際の印象や、自分に合う楽器の見つけかたについて、吹奏楽部の指導で活躍中の大和田智彦さん(一般社団法人日本クラリネット協会事務局長、ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクール事務局長、国立音楽大学非常勤講師)にお話を伺いました。
“R13″と”RC”を試奏した印象は?
大和田智彦さん(以下敬称略、大和田) ”R13″は、クラリネットらしい木の音が心地良く響くと感じました。音に重厚感もあるので、自分の好みのタイプの楽器です。重い鉄の鐘に、軽いものをポンとぶつけて深い音が出るような、よく鳴る楽器だと思います。キーの操作感や均一性にも優れています。
”RC”は、音色に開放感があり、よりソリスティックな楽器だと感じます。自分の個性を表現しようと思った時に、より演奏しやすいかも知れません。こちらもキーの操作感や均一性に優れた楽器です。
“R13″と”RC”はどんな人におすすめですか?
大和田 日本人は大抵リコーダーを経験しているので、初めてクラリネットを吹くときにも、「とりあえず吹けば鳴るだろう」とイメージしています。ところが実際に吹いてみると、最初は全然鳴らない。そうした時に、選ぶ楽器には2種類あると思います。1つめは、手軽に鳴らすことができる楽器、2つめは、しっかり息を入れる必要がある楽器です。
1つめの「手軽に鳴らすことができる楽器」は、趣味や部活でトライする場合や、音大の副科で始める場合などにおすすめです。手軽に音が出て、一定のレベルまで短期間で到達しやすい〈ビュッフェ・クランポン〉”E11-13″のスチューデントクラリネットは良い選択肢ですし、予算に応じて購入するのが良いと思います。
2つめの「しっかり息を入れる必要がある楽器」は、楽器を長く楽しもうと考えていたり、本格的に学ぶ場合におすすめです。クラリネットの基本となる、「しっかり息を入れる」ことが学べる抵抗感(*)を持つ”R13″、”RC”は理想的です。本格志向の方に関しては、最終的にはこちらが上達への近道になります。また、スチューデントクラリネットでは音大受験はできません。プロを目指す場合は、最初からプロフェッショナルモデルの”R13″、”RC”を持ち、大学に合格してから必要に応じて買い替えを検討できるので、買い替え回数も少なくて済みます。
(*=しっかり息を入れることで音を作る)
中学高校で、”R13″や”RC”を使う人は多いですか?
“R13″、”RC”を使うメリットは?
大和田 一番最初に手にする楽器は大切です。それによって好きになるか、嫌いになるか、が大きい。最初からいい楽器を手に持つことは、クラリネット本来の鳴らし方を覚えることにつながり、音色づくり、響きにおいて大きな影響があります。
私は長年国際コンクールを見てきていますが、そこで活躍する人には、その人の「音色」があります。彼らには「人から教えられて作った音」ではなく、「自分の出したい音」が明確にあって、自分自身の音色と、それを作り出すエネルギーがあります。そのエネルギーを引き出すためには、最初から、様々な音色を作ることができ、創造性が養われる”R13″、”RC”は理想的です。
「音色づくり」が本格的なクラリネットの勉強では大切なんですね!
大和田 今の若い人は何でも吹けて、恐ろしいほどポロポロと暗譜で演奏できてしまいます。しかし、インターネットで手軽に何でも聴けるような時代になった影響のためか、逆にリアルな音を聴く機会は少ないように思えます。コンクールでは、リアルな音の響きの違いが顕著に出てきます。
本格的にやりたい方には、楽器の機能や吹きやすさに目を向ける前に、楽器をどういうふうに響かせ、どのように素晴らしいと感動させる音をつくるか、というところに、ぜひ関心を持ってほしいですね。
自分に合う楽器は、どんなふうに探せばいいですか?
大和田 まずは自分の好みを事前に把握するために、プロの演奏を聞いてみたり、カタログやyahoo知恵袋などのインターネットの情報、楽器店の販売員のアドバイスなどを参考にしながら、どのような音を出したいかのイメージを作り、興味を持った機種を試奏してみてください。
クラリネットの機種には、それぞれ音に特長があり、奏者との相性もあるため、正直な話、「どれが好きか」が重要です。自分の印象をしっかり覚えておいて、良いと思った機種を選べば大丈夫です。〈ビュッフェ・クランポン〉はどれも良い楽器ですから、出会いや相性を大切にしてください。
また、マウスピース、リガチャー、リードのセッティングも重要ですから、こちらもきちんと試しましょう。
大和田さんは、生徒の楽器選びで試奏されることも多いかと思います。楽器選びの試奏では、何を吹いて、何をチェックすれば良いか教えてください。
大和田 私が楽器を選ぶ時の4つのステップを紹介しましょう。
1. 開放の音で音色を確認
開放の音は、楽器の「素」の音がでるので、楽器が持つ音色を確認するために吹きます。
試奏する時の、自分の状態、息のコントロール、リードの状態などを確認する意味でも、まず吹いてみてください。
2. アルペジオで均一性と柔軟性を確認
下から上までの音域で、音色や響きが均一でバランスがと良い楽器かどうかを確認するために、アルペジオのように音を出しましょう。解放の音と、中央のあたりのキーを押さえた音、全てのキーを押さえた音の3つを、レジスターを押さえた音、レジスターを押さえない音でそれぞれ鳴らします。
音域が遠い音へ移動する時はレガートで吹くことが難しいので、スムーズに移動できるかどうかという柔軟性も確認します
3. 半音階でキーの操作性を確認
特に小指周り、左手の操作性に問題がないかを確認します。
4. オクターブで音程を確認
「ド」と「オクターブ上のド」など、オクターブを吹いて、音域間の音程のばらつきを確認します。
ほかにも試奏に関するアドバイスはありますか?
大和田 学校の備品はコンディションに問題があることが多いので、それに慣れた状態で新品のクラリネットを吹くと、どれも良く思えてしまうものです。
例えば、サードパートで使われ続けている備品のクラリネットは、サードで使われる音域だけがカンカン鳴って、高音は鳴らなくなります。逆に高音域ばかり吹かれる楽器は、高音がキンキン耳障りな音を出すようになります。また、楽器が壊れていても、それを吹くものだと習う場合さえあります。このような備品を使った後に、上手に新品の楽器選びをするのは難しいことだと思います。
前述のメソッドで試奏するには、ある程度経験がないと吹けないこともあるので、試奏に不安がある人は、先生や先輩、お店の人に一緒に吹いてもらうと良いでしょう。
大和田智彦さん プロフィール
9才よりクラリネットを始める。
国立音楽大学附属高校、国立音楽大学を卒業後渡仏。パリ12区立ポール・デュカス音楽院一等賞を以て卒業。
第6回日本クラリネットコンクール入選。
今までに、高鹿昶宏、大橋幸夫、小笠原長孝、浜中浩一、ミシェル・アリニョンの各氏に師事。
ソロ、室内楽、オーケストラ等で活躍中。
現在、国立音楽大学非常勤講師、一般社団法人日本クラリネット協会事務局長、ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクール事務局長。