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加藤明久氏に聞く
クラリネット演奏のテクニック

クラリネットで良い音を出すために必要な「息」は? 正しく音程をとるための基本は?
昭和音楽大学特任教授、武蔵野音楽大学非常勤講師の加藤明久さんに、クラリネットの上達に不可欠なポイントや、マウスピースとリード、おすすめの練習法についてお話を伺いました。(文・構成=今泉晃一、写真=各務あゆみ)

クラリネットの「抵抗感」、「息」、「音程」

まず最初に、プロのクラリネット奏者の皆さんがよくおっしゃる「楽器の抵抗感」について教えていただけますか。

 楽器の抵抗感は、リードなしには語れません。クラリネットというものはリードの反発力を利用して音を出していますので、上級者になればなるほど、硬いリードを使うようになります。野球のボールに例えれば、初心者のうちはフワフワのゴムボールを使っていて、それが軟式のボールになり、硬式のボールになっていくような感じです。そして、ボールが硬くなるほど風などの影響などを受けずに、真っすぐの球が投げられるし、打ったときに遠くに飛びます。クラリネットの音も同様です。

 そういう硬いリードを使ったときに、その振動をどれだけ受け止められるかは、楽器の抵抗によります。抵抗を減らして安易に吹きやすさを求めた楽器は、硬いリードを付けたときに楽器の方が負けてしまう感じがあります。

 たとえば、〈ビュッフェ・クランポン〉プロフェッショナルモデルの入門機種と言ってもいい“GALA”(ガラ)は程よい抵抗感を持ち、しっかりしたリードを受け止めることができる楽器です。だから柔らかいリードで吹くと、音が細くなってしまう可能性があります。硬めのリードをしっかり鳴らせる人向けの楽器ではありますが、逆に言えばこの楽器で良い音を出せるようにすることで、きちんとした奏法が身に付くということになります。

「程よい抵抗感があって、しっかりとリードの振動を受け止められる楽器」というお話が出ましたが、加藤明久さんが中学生以来使い続けている〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器には、共通してそのような特色があるということでしょうか?

 そう思います。〈ビュッフェ・クランポン〉のクラリネットの魅力は、言い換えれば「推進力」と言ってもいい。音が真っすぐ前に出ていくように、後ろからぐっと背中を押されるような感じで、直進性がある音。これは、“GALA”はもちろんフラッグシップモデルの“Tosca”でも、“E11”、“E12F”のようなステューデントモデルでも共通です。全部お膳立てをしてくれて、「さあどうぞ」というものではないんです。楽器が安易な「吹きやすさ」に迎合せず、一本筋が通っている、そこが魅力だと思います。

 ただ吹きやすいだけの楽器って、柔らかな音がしますけれど、遠くにまで音が届かないことが多い。小さな空間で、お客さん2030人の前で吹くならそれでもいいですけれど、ホールで吹くときに客席までなかなか届かない。もちろん、ただ音が遠くに飛ぶ楽器が良いというわけではないですが、オーケストラで吹く場合は前にいる何十人もの弦楽器を飛び越えて行かなければならないわけです。特に私がいたNHK交響楽団の弦楽器は、みんな良い楽器を使っていてよく鳴りますので、余計にその「推進力」が必要でしたね。

良い音を出すには、たくさん息を入れるように言われることも多いですが……。

 上手な奏者ほどムダな息を使うことなく、効率よく息を使 っています。息圧はもちろん必要ですが、たくさん息を入れさえすれば良い音が出る、というのは間違いです。

マウスピースだけでもわかるんですね。

 詳しいことは企業秘密ですが、効率よく音が出せているかはマウスピースだけでも判断できます。マウスピースだけで練習するのは良くない、と昔から言われています。確かにその通りですが、マウスピースだけ吹くことで発見できることがあります。

マウスピースとリードについて

ところで、マウスピースはどういうものを選べばいいのでしょうか。

 私の選定品はなかなかの評判で、N響のメンバーも私が選定したマウスピースを、口を開けて待っています(笑)。

 マウスピースを選定する際に音色で選ぶ方が多いようですが、音色は型番ですでに決まっており、個体差には「鳴るもの」と「鳴らないもの」しかありません。 言い換えれば「リードの振動を促進するもの」と「リードの振動を妨げているもの」です。 氷の上でボールを転がすのと、フカフカの絨毯の上で転がすのとの違いになります。これは楽器の選定でも同様です。

中学、高校の吹奏楽部でクラリネットを始める人が多いですが、練習の際に留意することはありますか。

 特に高校の吹奏楽部は練習時間が長いところが多く、土日だと1日7~8時間も吹いているところがありますが、マウスピースをきちんと噛むような正しい吹き方をしたら、そんなに吹けるはずがないんです。つまり、無意識のうちに楽をする吹き方になってしまう傾向があり、リードも柔らかいものを使うようになってしまいます。これでは良い音は出せません。

 金管楽器は自分の唇を鍛えるためにロングトーンが必要ですが、クラリネットの場合、ロングトーンだけで音色が豊かにはなりません。金管が唇を鍛えるのなら、クラリネットはリードを鍛えないと。つまり、良い音が出るリードを見つけることです。ところが「良いリード」 はそのへんに転がってるわけでも、真新しい紙箱に入っているわけでもないんです。リードは手間と時間を掛けて育てるものです。

リードを育てる?

 リードは箱から開けた時点では、まだ生きています。よく水を吸うのがその証です。「おまえはもう死んでいる!」とわからせるまでに、最低1ヶ月は掛かります。育成方法はこれまた企業秘密ですが、新しいリードは瓦のように丸まりたがる傾向にあり、これを平らに固定させるためにリードケースがあるのです。よけいな水分を吸わせないように表面をこすってみるのもよいでしょう。私はここ数年、オリーブオイルを塗ったりもしていますが、とにかく試行錯誤の繰り返しです。今ここで講釈している内容が1ヶ月後にはコロッと覆されているかもしません。言えることは、リードの育成や管理は練習のひとつ、ということです。

おすすめの練習法

では、クラリネットに必要な練習とは?

 まずはスケールですね。いつもレッスンで言うことですが、必要なのは(1)指の練習(2)舌の練習(3)唇の練習(4)歌う練習、です。そのうち(1)~(3)はスケールでできます。(4)はエチュードが必要です。一方で、(1)以外の練習に必要なのが、良いリードです。クラリネットで音を出すということはリードの反発力を利用しているわけですから、良いリードで練習しないと意味がありません。これもよく球技に例えますが、空気の抜けたボールでは練習になりませんよね。リードもそれと同じです。

 そのスケール練習ですが、特に吹奏楽では意外とみんなやっていない。やったとしてもみんなで一緒に吹く。それでは自分の音が聞こえませんから意味がありません。また、ただ音階をやるだけだと(1)指の練習にしかなりませんから、アーティキュレーションの変化を付けて行なう(2)舌の練習、アルペジオ(分散和音)で音と音の移り変わりをなめらかにする(3)唇の練習、というようにバリエーションが必要です。

 ここでは細かなところまで話しきれませんが、エチュードなどを参照しながら、研究や工夫をしていただけるといいと思います。いずれにせよ、ただメニューをこなすだけではない、「意味のある」練習をしてください。

加藤 明久さん

昭和音楽大学教授 / 武蔵野音楽大学非常勤講師

クラリネットを大橋幸夫、浜中浩一の両氏に師事。
1983年、国立音楽大学卒業。その年より制定された矢田部賞を受賞。
第53回読売新人演奏会などの新人演奏会に出演。
第16回民音室内楽コンクール第1位入賞。
1984年、第1回日本クラリネット・コンクール入賞。
1985年、第35回ミュンヘン国際コンクール木管五重奏部門でファイナリスト。
1988年、欧日音楽講座にて初のビュッフェ・クランポン賞を与えられる。第2回日本クラリネット・コンクール入賞。
1990年、NHK交響楽団に入団。
2019年、NHK交響楽団を退団。
2019年より昭和音楽大学特任教授、武蔵野音楽大学非常勤講師。
使用楽器:B♭管、A管 〈ビュッフェ・クランポン〉”トスカ
所在地

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