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加藤明久氏に聞く〈ビュッフェ・クランポン〉
プロフェッショナルクラリネット入門

2021年、〈ビュッフェ・クランポン〉よりクラリネットの最新機種、“GALA”(ガラ)が発売されました。
クラリネットの定番中の定番として世界中の奏者から支持を集める“R13”、“RC” と並ぶ、プロフェッショナルクラリネットのエントリーモデルとして誕生した“GALA”について、昭和音楽大学特任教授、武蔵野音楽大学非常勤講師の加藤明久さんからお話を伺いました。(文・構成=今泉晃一、写真=各務あゆみ)

“GALA”-“R13”-“RC” 3機種吹き比べ 

これまでの〈ビュッフェ・クランポンの〉プロフェッショナルモデル“R13”と“RC”に加えて、同価格帯に新たに“GALA”が登場しました。まずはその印象をお聞かせください。

 細いところを息が勢いよく抜けていくイメージで、まるでターボが付いたように、息にスピードが出ます。吹いていて痛快な感じがありますね。これは以前の“BC20”とか、僕が今使っている“Tosca”とも共通で、息のスピードの分遠くまで音が届きます。

 細く感じる分、心地よい抵抗感があります。クラリネットには程よい抵抗は必要ですからね。僕はこんなふうな感じで吹ける楽器が好きです。そして、これからクラリネットを勉強していこうという人にとっては、楽器が正しい奏法を作ってくれると言えます。 

“R13”、“RC”と“GALA”、それぞれの特徴を教えてください。

 僕はクラリネットを始めたときから“R13”を吹いていたのですが、楽器自体はいわばの状態で、自分で音色を作っていく楽器です。一方で“RC”というのは、「ビュッフェ・クランポンがチューニングした楽器」という認識です。音色がある程度作られていて、吹いただけでビュッフェ・クランポン“RC”の音が出るのですが、自分で変えられる余地は比較的少ない。

 だから好みが分かれるところで、“RC”の明るくて華やかな音色が気に入っているなら迷わず“RC”を選べばいいですし、マウスピースやリード、樽やベルなどを変えたりして自分の音を作っていきたいという人は“R13”がいいと思います。

 さらに言えば、“R13”はある意味で柔らかさがある。「モナリザ」を代表とするレオナルド・ダ・ヴィンチの絵の技法に「スフマート」というものがあるのですが、輪郭を柔らかくぼかすというものです。“R13”の音はそんな感じです。音の芯がないわけではなく、その周りに柔らかい部分がある。それに対して“RC”はクリアですね。

 “GALA”はどちらとも違って、細いところからストレートに音を出す感じです。そして音にすごく密度があって、倍音が豊かでよく届く音。“GALA”の源流とも言われる1960年発売の“BC20”という楽器も吹いたことがありますが、それと似た感じですね。僕の使っている“Tosca”とも似ています。

 “R13”を筆だとすると“RC”は色鉛筆、そして“GALA”は上質なボールペンですね。細い線をしっかりとむらなく、濃く書けるというイメージです。

クラリネットの「良い音」とは 

さきほど「最初から“R13”を吹いていた」とおっしゃいましたが、その頃のことをお話しいただけますか。

 中学校に入って、入学式の演奏が格好よかったので吹奏楽部を見に行ったら、そこでバスクラリネットを渡されました。行ったのが少し遅かったので、もうそれしか空いていなかったからで、もともとクラリネットを希望していたわけではありませんでした。しかし、そのバスクラリネットが古くてまともに音が出ない楽器だったので、嫌で嫌で。

 B管を買ったら移れるかと思って1年生のうちに“R13”を買ってもらいました。中高一貫校だったので、高校生の上手な先輩が使っている楽器ということで憧れもありました。楽器を買ってもらってからはとにかく嬉しくて、毎日1時間磨いていたことを覚えています(笑)。

 翌年には祖父がパリに行くというのでビュッフェ・クランポン“S1”のA管を買ってきてもらい、モーツァルトなどを吹きまくっていました。それから今に至るまでずっとビュッフェ・クランポンを使っているので、ビュッフェ・クランポンの音色とか抵抗感などが体に刷り込まれてしまっています。

「良い音」という認識はどのようにして得たのでしょうか。

 僕が通っていた中学・高校は当時吹奏楽コンクールで全国大会に出ていたところで、上手な人も多かったです。まずそういう先輩の音を聴いて、「これが良い音なんだ」と認識しました。19歳のときに東京クラリネットアンサンブルを始めましたが、メンバーにはオーケストラプレーヤーも多く、かなり勉強になりました。当時は吉祥寺のアーケードにある雑居ビルの小児科で、みんな演奏会が終わってから集まって、夜中まで練習していたものでした。

 今でも覚えているのは、鈴木良昭さん(元新日本フィルハーモニー交響楽団首席奏者)が来たときに、最初驚くほど「音が粗い」と感じたことです。ところがテレビで聴くとすごく良い音。そのとき、「近くで聴くとこんなに違うのか」と実感しました。

 近くで聴いて良い音は、倍音が少ないためにシンプルで聴きやすいのですが、豊かに響く音は倍音が多いので耳元では粗く聞こえたのでしょう。浜中浩一さん(元NHK交響楽団首席奏者)もそうでしたが、「オーケストラで通る音というのはこういう音なのか」と思いましたね。近くで聴いて良い音を目指すのではなく、遠くで聴いたときに良い音になるような豊かな音を出さないといけないと、いうことがよくわかります。

吹奏楽などで、セクションで楽器をビュッフェ・クランポンにそろえるメリットはありますか。

 ビュッフェ・クランポンを使っているからといって、それだけでバンドの音を聴いてぱっと違いがわかるかと言われると疑問ですが、「良い音をしているな」と思って見るとビュッフェ・クランポンを使っている、というケースは多いです。クラリネットはバンドの音を作る核となるので、そこの音が違うと、影響は大きいですからね。

 吹奏楽コンクールの審査員などをやっていると、ビュッフェ・クランポンではないメーカー製で、音は柔らかいけれど飛んで来ない楽器を使っているなということは、聴いてわかるものですよ。

クラリネット初心者におすすめの機種

最初から、“R13”や“GALA”のようなプロフェッショナルモデルの楽器を使った方がいいのでしょうか。

 僕は最初から“R13”でしたが、みんながそういうわけにもいかないでしょう。ただ、上手になってくると良さがわかるので、自然に“R13”とか、“GALA”などにたどり着くはずなんです。最初はただ楽に吹けることだけを求めていた人も、だんだん上手になってきて、硬いリードを使えるようになったときに、これらの楽器を選ぶことになります。僕の場合、最初から“R13”を買ったことで、回り道をせずに上手くなれたのだと思います。

 というのは、楽器が吹き方を育てるからです。逆に、たとえば“GALA”がとても吹けないということであれば、リードのところで正しい振動が得られていない、要するに正しい吹き方ができていないということになります。

 もちろん、ビュッフェ・クランポンのスチューデントモデル、“E11”や“E12F”などで始めるのもいいと思います。その場合でも、やはり上達するにしたがって上位モデルに替えたくなるはずですが、ビュッフェ・クランポンで始めることで、“GALA”のようなプロフェッショナルモデルに移行しやすくなるというメリットはあります。

楽器を選ぶときに重要なことは?

 音が止まらずに、伸びていくような楽器を選ぶことです。まるで自転車の後ろをつかまれているように、音が前に進まず止まってしまうような楽器もけっこうありますが、そういう楽器はいくら吹くやすくても選ばない方がいい。どうしても「吹きやすい」、つまり息を入れて楽に音が出る楽器を選んでしまいがちですが、実は吹奏感の重い楽器に音が伸びる楽器があるわけです。自転車も重い方が安定して走ることができるじゃないですか。それと同じことです。

 さらに言えば、樽(クラリネット楽器本体の一番上のパーツのこと。バレルとも呼ばれる。)による影響がかなり大きい。樽の内径が大きければ音は楽に出るようになりますが、その代わり抵抗感がなくなってしまい、吹いたときの支えがなくなってしまうケースも多いです。特にppで出なければいけないような緊張する場面では、抵抗感が支えになるので、適度に抵抗感がある方が安心して音が出せます。

 いずれにせよ、まず吹いてみることですね。同じビュッフェ・クランポンの“R13”、“RC”、“GALA”でも比較的価格は近いですが、音が大きく違うわけですから。  

最後に、新しい“GALA”はどんな人にお薦めですか。

 やはり特徴的なのは吹奏感なので、吹奏感が気に入った人には文句なしにお薦めの楽器です。そのためにも、まず吹いてみることが大切です。いわゆる初心者向けの吹きやすいだけの楽器とは明らかに違いますから。

加藤 明久さん

昭和音楽大学教授 / 武蔵野音楽大学非常勤講師

クラリネットを大橋幸夫、浜中浩一の両氏に師事。
1983年、国立音楽大学卒業。その年より制定された矢田部賞を受賞。
第53回読売新人演奏会などの新人演奏会に出演。
第16回民音室内楽コンクール第1位入賞。
1984年、第1回日本クラリネット・コンクール入賞。
1985年、第35回ミュンヘン国際コンクール木管五重奏部門でファイナリスト。
1988年、欧日音楽講座にて初のビュッフェ・クランポン賞を与えられる。第2回日本クラリネット・コンクール入賞。
1990年、NHK交響楽団に入団。
2019年、NHK交響楽団を退団。
2019年より昭和音楽大学特任教授、武蔵野音楽大学非常勤講師。
使用楽器:B♭管、A管 〈ビュッフェ・クランポン〉”トスカ
所在地

〒135-0016 東京都江東区東陽4丁目8−17

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