最初の自分の楽器はR13
ビュッフェ・クランポンとの出会いは?
西川(敬称略)
僕が行った中学校の吹奏楽部では、クラリネットを買う人はみんなR13を使っていたので、自然な流れでR13を選びました。「買うならこの楽器で間違いない」という伝統のようなものができていたんですね。
それまで使っていた学校の楽器はかなり古くて状態もよくなかったのですが、それて比べて「きれいな楽器」ということにまず感動しました(笑)。
新品だからきれいなのは当たり前ですが、キーの形状とか全体のデザインなどが、今見てもビュッフェ・クランポンの楽器って美しいんですよ。すぐに体に馴染む感覚になり、「自分の楽器」を持ったことで練習にも身が入るようになりました。
自家で練習することが以前よりも自由になったし、メンテナンスも自分で信頼できるところでするようになったので、いろいろなことがわかりやすくなりました。
それまで使っていた学校の楽器では、「楽器の状態が悪いのにリードとかマウスピースをこだわって選んでもしかたない」と思う部分もありました。
それが無駄とは言いませんが結局は回り道になってしまいますからね。信頼できる楽器を持ち、それに対してベストなものを選んでけたこともよかったです。
西川智也さん
R13だからこそ上達できたような部分はありますか?
西川 まずしっかりと鳴る楽器なので、楽器の鳴らし方を学べました。また、周りもみんな同じ楽器を使っていたので、自分がどういうふうに吹けばいいかを教えてもらうこともできました。自分ではよくわからなかったのですが、以前よりいい音が出るようになり、講師の先生にすごく褒めてもらったり、任されるパートにも変化があったことを覚えています。
結局そのR13を音大に入るまで使ったので、最初に買ったのがこの楽器で本当によかったと思っています。
大学に入って、どんな楽器に買い替えたのですか?
西川 先生(和田尚裕氏)の影響もあり、他メーカーのエーラー・システム(ドイツ式)の楽器を使っていました。しかし、卒業後にまたR13を買い直しました。ドイツ管の違うイメージの音を学んでからR13に戻ったことは、自分にとってよかったと思います。応用も利きますし、演奏の幅が広がったと言えます。
その後コンクールで入賞したり、大阪から東京に来て、東京藝大の別科を経て大学院で勉強するようになり、今に至るまでビュッフェ・クランポンを使い続けています。
どこまでも可能性を探っていけるのが本当に良い楽器
R13の次の楽器は?
西川 プレスティージュを吹いてコンクールを受けたり、オーケストラに入ったりしました。
しかしオーケストラに入ってから、少し違う色が欲しくなり、試しに吹いてみたところトラディションのうちの1本がものすごく良い音がして、もう運命のめぐり合わせのように感じてすぐに買ってしまいました。
現在はトスカがメインで、音に華があり、歌いやすい楽器です。よく「上級者向け」と言われますが、基本的にはすごく吹きやすく、楽に吹けて、僕が今やりたいことが一番やりやすい楽器ですね。
そうやって、ビュッフェ・クランポンを使い続けている魅力というのはどのあたりにあるのでしょうか。
西川 まずメーカーとして、今主流となっているベーム・システムを作ったのがビュッフェ・クランポンです。改良を繰り返して現在に至っていますが、楽器のアイデンティティとなるような基本的な部分は大きく変化しない。そう考えると、すごく歴史の重みがあるじゃないですか。
そういうところが「本物」であると言えますし、価値があることだと思います。
現在のビュッフェ・クランポンの良い点は、機種のバリエーションが豊富だということです。
プロフェッショナルモデルは大きく分けて3系統あり、それぞれに価格的にもバラエティに富むモデルが用意されています。しかし、必ずしも価格の上の楽器が誰にとってもいいというわけではありません。
たとえばR13の系統の上位モデルにフェスティヴァルがありますが、単純にR13が下でフェスティヴァルが上という関係ではありません。「R13の方がいい」と感じる人もいるはずです。
実際、プロのプレイヤーでR13を吹き続けている人もいますね。
西川 改めて吹いてみると本当に良い楽器です。ではトスカのようなフラッグシップモデルとの違いは何かというと、上位モデルは楽器が吹き手を助けてくれるようなところがあるんです。もちろんプロレベルの話ですけれど。そういう意味で、仕事で使いやすいということになるわけです。
一方でR13はとても素直に音を出してくれるので、吹き手に対して自由度が高い。
言ってみればR13って基準となる楽器ですよね。「これがクラリネットの音」という良い音が出る楽器なので、あとは自分が練習すればいいということになります。
では、ビュッフェ・クランポンの音の魅力は何だと思われますか。
西川 楽器にあまり色が付いていないような気がするんです。だから自分の音が作りやすい。
自分の調子の良し悪しも音に表れるくらいですが、だからこそ可能性も感じます。
ヴァイオリンの有名なストラディヴァリウスは、普段から弾いている奏者にも新しい音色や発見を楽器が教えてくれると耳にしました。そうやってどこまでも可能性を探っていけるのが本当にいい楽器だと思いますが、まさにビュッフェ・クランポンがそうなのです。
西川智也さん
R13、RC、GALA、それぞれの特色
R13と並んでRCも昔から人気の高い楽器ですし、同じエントリーラインで新しい GALAもありますが、どのような違いがあるのでしょうか。
西川 音色の傾向の違いですね。僕が感じるのは、RCの方が繊細な表現が出しやすく、R13は比較すれば迫力のある音を出しやすい。そういう意味で、RCがヨーロッパで人気が高く、R13がアメリカで人気が高いということもわかります。
GALAは素直に柔らかく吹くと素朴な音がして、クラリネットらしさが前面に出せる楽器です。吹奏楽部の生徒のために選んであげると、そのあと先生から「すごく良い音がする」と言われることが多いです。R13より前の時期のビュッフェ・クランポンを代表するBC20というモデルの系譜を継ぐ楽器ということで、歴史的に見るとR13の方が革新的なのかもしれません。
GALAの上位モデルのトラディションもそうですが、フォルテを吹いたときに輪郭のくっきりした格好良い音が出せるんですね。それがR13では太くて弾力のある音になり、RCだと明るく響いて輝かしい音が出ます。
プロフェッショナルモデルのエントリーラインの3モデルですが、やはりそれぞれ系統 ごとの特色がしっかりとあるわけですね。
西川 だからこそ、自分が一番いい音を出せる楽器を選ぶことができるわけです。ただ、買い替えるとしても、系統にこだわる必要はありません。プロフェッショナルモデル合計9モデルから自由に自分に合う楽器を選べるということなのです。事実、僕は最初R13を使っていましたが、その次はRC系統のプレスティージュ、さらにGALA系統のトラディション、そして再びR13系統のトスカを使っていますからね。
繰り返しになりますが、R13、RC、ガラの3本はクラリネットを始める人にぜひ持ってほしい楽器ですね。しかもきちんとメンテナンスしていけば、そのまま一生使える楽器です。メンテナンスやリペアに関しても、ビュッフェ・クランポンの楽器は日本中の楽器屋さんがノウハウを持っていますから安心です。
西川智也さん
スチューデントモデルも、音色の基本的な部分は共通
ビュッフェ・クランポンの入門モデルとも言えるスチューデントモデルに関しては、いかがでしょうか。
西川 E13は僕自身、吹奏楽部の生徒などのために選ぶことも多く、「ちょうどいい楽器」という印象です。R13クラスとは違ってプロが使うには足りない部分もあるのですが、それが何かと言うと、スチューデントモデルの楽器はガイドのようなものを持っているのです。吹き手がそこから外れようとすると、楽器が「こっちだよ」と教えてくれるような。
でもそれはクラリネットを始めて年数の経っていない人にとっては、非常に助かることです。また、息を吹き込んでも音が変わりにくい、つまり汚い音が出にくい。自由度はありますが、ある程度のところに楽器がまとめてくれるような印象ですね。
E12(F)、E11はいかがでしたか。
西川 E12Fを吹いてみましたが、これは独特な感触があってよかったです。しっかり吹けるし、コクのある音がします。E11は軽くてすごく吹きやすく、息の力のない人でも鳴らしやすいので、初心者でも楽しく吹けると思います。
でもスチューデントモデルも、R13をはじめとするプロフェッショナルモデルと音色の基本的な部分は共通しています。抵抗感や許容量は上位モデルにいくにしたがって増えていくので、もっと音量を出したり、表現の幅を求めようとしたときに、プロフェッショナルモデルを選ぶといいですね。
豊富なモデルがある中から自分の楽器を選ぶ際には、どのようにするといいでしょうか 。
西川 現実的な話、まず予算を決めてその中で吹き比べて選ぶといいのではないでしょうか。
プロフェッショナルモデルのエントリーラインが買える予算があるなら、R13だけでなくRCやGALAも吹いてみるということです。
もうひとつ、好きな奏者が使っている楽器、もしくはそれに近い機種を選ぶというのもお薦めです。そのとき参考になるのが、ビュッフェ・クランポンのプロフェッショナルモデルの「系統」ですね。トスカを使っている人が好きなら、自分は同系統のR13を選ぶとか、レジェンドを使っている人の音が好きなら、同じ系統のGALAを選ぶというのもいいでしょう。それも念頭に置いて、じっくりと吹き比べて選ぶことが大切だと思います。
その際、吹き心地も大事ですが、それを重視しすぎてしまうと音色が置き去りになってしまいがちです。「自分に合う楽器」ということばかり求めてしまうと、発展性がなくなってしまう恐れもありますから、理想の音が出る楽器に自分が合わせていくつもりで、息の入れ方やリード選びを考えると、上達の助けになると思います。憧れの奏者が使っているとすれば、「この楽器を使って上手になれば、こういう音が出せる」という目標にもなりますからね。
一方で初心者の場合は、楽器が吹ける人と一緒に楽器屋さんに行き、その人が吹いている音を聴いて、自分が好きな音かどうか判断するといいです。
最後に、楽器のメンテナンスについて注意点を教えていただけますか。
西川 毎日のお手入れとしては、とにかくスワブを通して水を残さないことが一番大事です。
それから夏場は冷房に気を付けること、冬は楽器が冷えた状態ですぐ吹かないということ。そうして割れることを防ぎたいですね。
特に買ってから間もない頃は割れやすいので、できるだけ頻繁に点検に持って行った方がいいです。木が水分を含んで膨らんでくるので、ジョイントが硬くなることがよくあります。その調整をしてもらうときに、他の部分も点検してもらうといい。特に初めて楽器を持つ人は、楽器をどんなふうに扱えばいいかというアドバイスももらえますから。
落ち着いてきたら、半年に1回、1年に1回くらいの頻度で調整に出すといいでしょう。調整を繰り返して自分の音に近づけていくということもありますし、お気に入りのリペアの人を見つけてリレーションを作っていくことは、楽器ライフにとってかなり重要なことです。自分の楽器のことを何でもわかってくれる人がいたら、やはり安心じゃないですか。
西川 智也
Tomoya Nishikawa
大阪教育大学教育学部教養学科芸術専攻音楽コース卒業。東京藝術大学大学院修士課程修了。NHK交響楽団「N響アカデミー」を修了。和田尚裕、青山秀直、山本正治の各氏に師事したほか、オーケストラ演奏をNHK交響楽団のメンバーに学ぶ。
第9回東京音楽コンクール木管部門第1位、第24回日本木管コンクールクラリネット部門第1位、第23回宝塚ベガ音楽コンクール木管部門第2位および会場審査員特別賞受賞。
ソリストとして、日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、群馬交響楽団等と共演。NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」に出演。オーケストラおよび室内楽奏者として小澤征爾音楽塾、木曽音楽祭、東京・春・音楽祭、ラヴェンナ音楽祭、草津夏期国際音楽フェスティバルなどに出演。これまでにW.ヒンク、T.インデアミューレ、C.プレガルディエン、G.プーレ、澤クヮルテット、ヤン・ソンウォンらと室内楽で共演した。現在、群馬交響楽団首席クラリネット奏者としてオーケストラ奏者としての活動を中心としながら、室内楽やソロでの演奏も精力的に行なっている。
使用楽器
in B♭、in A :〈ビュッフェ・クランポン〉 “トラディション”,”トスカ”
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